「地面師たち」2019年12月5日発売

 集英社の「小説すばる」で連載していた小説「地面師たち」が無事に最終回を書き終え、ありがたいことに、このたび単行本として刊行される運びとなった。発売は来月、2019年12月5日に予定されており、すでに予約注文がはじまっている。


 今回の作品は、タイトルにもなっている「地面師」という詐欺師を正面からあつかった。他人の土地を利用して詐欺をはたらく地面師の存在を私が知ったのは、数年前に積水ハウスが五十五億円だましとられた事件がきっかけだった。

 当時、事件は大々的に報じられていたが、その報道内容を見ていくと、メディアが騒ぎ立てるのもうなずける。積水ハウスは、土地の所有者になりすました地面師たちの猿芝居によって、五十五億円もの大金をだましとられていたのだ。


 売上高一兆円を超える上場企業からすれば、五十五億円の損害などかすり傷同然なのかもしれない。それでも、この高度に発達した情報社会の現代において、管理体制が行きとどいているだろう大企業が、対面で他人のフリをするというきわめてアナログなやり方で一杯食わされた事実は、なんとも印象的だった。被害をこうむった積水ハウスや土地の所有者には悪いが、日々創作のタネを探している身としては、率直に面白いと思ってしまった。なぜ、いかにして積水ハウスはデタラメの話を信じてしまったのだろう。地面師たちは、どのような人物なのだろう……興味はつきなかった。

 そのこともあって、のちに「小説すばる」の編集者から、地面師を書いてみないか、と提案されたときは二つ返事で引き受けた。このときの私の心境としては、こうだったと思う。積水ハウス事件を筆頭に地面師たちが引き起こした事実はセンセーショナルで、それだけで十分力をもっている。多少の「アレンジ」をくわえれば、小説として形になるだろう、と。

 だがそれは、甘い見通しだった。
 事実によりかかって、それらしい「アレンジ」をくわえてみても少しも面白くならない。臨場感にとぼしく、無味乾燥な報告書を読んでいるような感じがぬぐえなかった。このまま書き進めても、ろくな結果を生まないのではないか。


 そこまでいたって、ようやく自分の誤りに気づいた。平坦で近道に思えたそのルートは、たぶん、どこまで行っても目的地に到達しない袋小路だったのだろう。いったん事実をすべて捨て去り、一から物語を組み上げるべきだった。
 たえず事実を視界の隅に意識しながら、しかし、その事実にとらわれない。そのようなスタンスで、ふたたびまっさらな原稿にとりかかった。

 もっとも、不動産のことなどつゆも知らず、ましてや、地面師についても報道以上のことがわからないのだから、そう簡単にうまくいくはずがない。そこからだと思う。本当の闘いがはじまったのは。

 作品は、多くの方々の手を借りながら、どうにか着地することができた。それも、当初思い描いていた目的地よりずいぶん遠くの地点で。
 正直、自分の筆力からすれば、かなり背伸びをした内容となっているように感じている。果たしてそれが吉と出たのか、凶と出たのか。その判断については、読者にゆだねたい。